第56章 七海の奪還
ROMを読み込み、映像を再生する。
すると、病弱そうな20代前後の女性が映された。
血色の悪い唇が徐に動く。
『私はもう、先が長くありません。
もっと生きたかったと思っても、本丸に戻れない私には成す術がないんです。
だから、せめて。
理不尽な目に合わせた江藤千尋に正当な処罰を望みます。
江藤千尋に命令した誰かにも。
お母さんもお父さんも何も悪いことなんかしてません。
私だってしてません。
なのに何でこんな風に死ななきゃいけないんですか…!
接待をしろという命令に従わないことが、そんなにいけないことなんでしょうか…!
私は娼婦になる為に審神者になったんじゃありません…!
私を、家族を、否定しないでください…!』
言い終わると、女性は手で顔を覆い、わっと泣き伏した。
見ていて痛ましくなる程に…。
『お母さん、お父さん、ごめんね、ごめんね…。』
その言葉を繰り返しながら…。
その女性を慰める者は側にいないのか、1人泣き続けたまま、映像は途切れた。
5分にも満たないその映像は、補佐官に衝撃を齎した。
「今のは…。」
「奥脇の接待命令に逆らった子の遺言だ。その接待が、これだ。」
瀬戸はそう言って、その下にあるファイルをクリックする。
『お、可愛らしい子だな。こんな別嬪さんが審神者とは、本丸って所は天国だろうな。』
酒を飲んでいるらしいその男は、お酌をする女性に話しかけながら体を撫で回す。
女性は苦笑いしながらも、抵抗せず黙ってされるがままになっていた。
『いいじゃないか。ね?ちょっとだけ、ちょっとだけ。』
『こ、困ります…!お願いします…!』
嫌がる女性を引っ張って奥の間に連れて行こうとする男の様子が映し出されている。
他にも似たり寄ったりのことがあちらこちらで起きている。