第54章 政府の企み ーその2ー
彼の胸中には、言い表せない気持ちがぐるぐると渦を巻いていた。
どうして言ってくれなかったんだ、という少しの怒りと。
何で瀬戸が知っているんだ、というモヤモヤと。
気安く彼女に触れてほしくない、という蟠りと。
大倶利伽羅は、咄嗟に掴んだレンの手をぎゅっと握って俯いた。
「どうしたんですか?」
引き止めたはいいが、何て答えたらいいのか分からない。
かと言って、気持ちよく送り出してやることも出来ない。
レンの様子が可笑しいことは、何となくわかっていたのに、側にいるだけで何も出来なかった。
なのに、自分に出来なかったことを瀬戸がやっている、というのが何だか腹立たしい。
役目を取られた気分だ。
不思議そうに見上げるレンが、何とも言えない様子で見つめている。
「…ははん。嫉妬か?」
声の主を見ると、瀬戸が腰に手を当て、にやにやと人の悪い笑顔を浮かべていた。
「…は…?」
大倶利伽羅は、言われた意味が飲み込めない。
ー…嫉妬…?
「嫉妬じゃねぇのか?俺がレンに馴れ馴れしくしたから。取られた様な気になったんじゃねぇのか?」
揶揄われている、とは思ったが、思い当たる節もある。
確かに取られたと思った。
気安くレンに触れる瀬戸を疎ましく思った。
ーこれが、嫉妬…。
そう思ったら、何やら急に恥ずかしくなり、彼は慌てて手を離した。
そして、レンからも仲間からも顔を隠す様に顔を逸らしながら、腕で顔半分を隠してしまう。
「お、俺は…、馴れ合うつもりは、ない…。」
「いや、今更かよ。」
瀬戸は少し呆れながらも即座に突っ込んだ。
「…何で嫉妬?」
レンは全く理解出来ず、真面目に大倶利伽羅を覗き込み、彼は益々レンから顔を背ける。
「鈍感か、お前は。」
瀬戸は、こちらにも的確なツッコミを入れておく。