第54章 政府の企み ーその2ー
明朝、辺りが明るくなった頃。
レンは七海の部屋を訪れた。
「七海さん、起きてますか?」
「ええ、起きてるわ。入っても構わないわよ。」
「失礼します。」
七海は、入ってきたレンを見て言葉を失う。
隣には手を腕から氷で拘束された薬研がいたからだ。
髪は乱れ、顔や腕、足は所々擦過傷を負っている。
「薬研、あなたのやったことを説明してください。」
レンは七海の部屋に入るなり、そう言いながら薬研の襟首を掴んで顔を上げさせる。
その目を見て、七海は息を呑んだ。
目つきは険しく瞳は憎悪を帯びていた。その矛先は間違いなく自分に向けられていると感じられる。
拘束を解けば襲いかかりそうだ。
七海の怯える様を見て、薬研は鼻で笑った。
「お前が悪いのさ。俺はただ仇を打とうと思っただけだ。」
「仇って、誰の仇なんですか?」
レンが冷たく問うと、彼女を見て薬研はニタリと嗤う。
「一兄さ。審神者に殺されたな。」
そう言ってから、薬研は七海をひたと見る。
「お前達人間は、善良な皮を被った獣だ。残忍で惨たらしく、凶暴で傲慢。俺達は何度審神者に甚振られたか分からない。」
「だから、あなたは七海さんを殺そうとしたんですか?」
その言葉に驚いて、レンを見てから薬研を見る。
薬研は、七海からすっと視線を下げた。
「あの日もそうだった。審神者は命令通りにしない俺を解刀しようとした。出来るわけないだろう?あいつは、俺に”乱を殺せ”と言ったんだ。
それを知った一兄が止めに来た。でもあいつは命令を取り下げることはなかった。それどころか、一兄に俺を殺すよう命じたんだ。”従わなければお前を解刀する”と脅してな。
それが引き金となって、一兄は堕ちた。」
薬研は力なく座り込んだ。
「一兄が…何をしたって言うんだ?
一兄はただ俺を庇いたかっただけだ。なのに…、なのに何で堕ちなきゃいけなかったんだ?
そこまで追い詰めたのは誰だ?俺か?
いいや、違う。審神者だ。」
そこまで言って、薬研はまた顔を上げる。