第54章 政府の企み ーその2ー
「審神者は刀剣を禍ツ神に堕とすことが仕事なのか?違うよな?
審神者は刀剣の傷を癒やし、守るのが役目だ。
あいつはそれを放棄したんだ!それなのに何故一兄が悪し様に言われなければならない!?」
薬研は叫ぶように、ぶつけるように、言葉を放つ。
「…姉様は、どうなったの?」
七海は、小さく呟くように問いかける。
「禍ツ神に殺されたそうです…。」
その問いに、薬研ではなくレンが静かに答えた。
「そう…。」
しかし、七海は怒りもせず肩を落としただけだった。
「俺は、ただそれを黙って見ていた。助けようと思えば助けられたかもしれない。だが、それをしなかった。絶対にしたくなかった!」
七海を見据える目は憎しみに満ちている。
「次はお前の番だ!一兄の苦しみをお前も味わえ!!」
七海は怯むことなく、薬研の憎悪を真っ直ぐ受け止める。そして背筋をぴんと正して冷たく見返した。
「嫌よ。姉様のやったことは確かに酷いことかもしれないけど、私がそれについての咎を受ける気はないわ。
私は姉様ではないの。別の人間よ。」
レンはそれを聞いて疑問を呈す。
「薬研が憎くはないのですか?あなたを殺そうとした上、あなたのお姉さんを見殺しにした人ですよ?」
レンの言葉を受けて、七海は嫌な顔をする。
「憎かったら何だって言うの?」
「私が拘束している今なら、お姉さんの敵討ちが出来るんじゃないですか?」
やっぱり、と言って七海は額を抑えた。
「やるわけないでしょう。やってどうするのよ?姉様が帰って来るの?来るわけないじゃない。
あのね。禍ツ神になったと言うことは、少なからず姉様に咎があるのよ。
あの時分、姉様は荒れてたはずよ。私も荒れてたのだもの。私だって、何振りか禍ツ神に堕としたわ。」
そう言って、七海はレンを見た。