第53章 疑惑
時刻は真夜中に近い。
本丸は当然のことながら、静かな眠りに包まれている。
レンは本丸に着くと、いつもなら七海の所に顔を出すのだが、今日は寄らずに彼等がいる部屋へ直行する。
「レン…!」
レンが静かに部屋に入ると、明かりを落とした中に皆が起きて待っていた。
一人一人の顔を見渡すと、皆が皆、不安気な、それでいて神妙な面持ちを浮かべている。
「ここを出ると聞きました…。本気なんですか?」
レンはすぐ様話を切り出した。
「…うん、その方がいいと思う。」
加州が重い空気の中、口を開く。
「かえって危なくなるかもしれませんよ?」
「それでもここにいて、一気に落とされるよりましだと思う。」
「鶴丸さんにも話しましたが、七海さんはお姉さんのことであなた方を恨んではいないそうです。致し方ないことだと言っていたようですよ。」
それを聞いて、彼等は眉を顰めた。
どうにも信じ難いらしい。
「…誰が言っていたの?」
加州が訝しみながら問う。
「瀬戸さんから掻い摘んで聞きました。」
「本当に信じられるの?」
大和守も疑わしいと、ありありと顔に浮かべながら問う。
他の者も似たり寄ったりの表情だ。
それを見たレンは、盤面をひっくり返すのは容易ではないことを悟る。
「一応、聞きますが。誰だったら信じられるんですか?」
レンはこの質問は難しいかな、とも思ったが、彼等が何に重きを置くのかを掴んでおきたかった。
だが、
「「「「レン。」」」」
と揃って一言で返されてしまう。
「…盲目的過ぎやしませんか?」
何故そうも他を偏見的に拒むのか、主だからと言う理由で全てを受け入れてしまうのか、レンには理解が出来ない。
レンは一つため息をつくと、暫し考えた。
今、七海の本丸を出るのは得策ではないと思う。
見張られている中で、今現代に拠点を移すのは自殺行為だ。
では、どうすればいいか。
疑心暗鬼に満ちた彼等に、七海の潔白を証明するには何をすればいいのか。
「なら、試してみましょうか?」
レンは、思いついたことを刀剣達に話す。