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君に届くまで

第53章 疑惑



「…楽しいですか?」

「楽しいぞ。世話のしがいがある。」

髪を小分けにし、一房一房丁寧に乾かしていく。

「もっと乱雑にやっちゃっていいですよ。」

「いや、これは俺のこだわりだ。」

レンは面倒だろうと思って言ったのだが、鶴丸は譲る気はないらしい。
まぁいいか、と思いつつ、そのまま流れに身を委ねる。

ふと、レンは昼間の瀬戸とのやりとりを思い出した。
鶴丸は江藤と何を話したのだろうか。
それを言わない、と言うことは後ろめたいということなのだろうか。
それとも、何か別の理由でもあるのだろうか。

「終わったぞ。」

鶴丸はドライヤーの電源を切り、櫛と一緒に片付けるとレンの側に戻った。

「レンの髪は黒くて綺麗だな。」

鶴丸は嬉しそうに笑いながらレンの髪を一房指で掬って流す。
レンは黙ってそれを見ながら、いつ切り出そうかと悩む。
レンから切り出すと尋問のようになりそうで、この雰囲気でそれをやるのは何となく躊躇われた。

鶴丸は、数回それを繰り返した後、ふと真面目な顔付きになった。

「レン、七海の本丸を出よう。」

鶴丸は真っ直ぐ彼女を正視する。

「…また一足飛びですね。理由は何ですか?」

「驚かないのか?」

「驚いてほしかったんですか?」

鶴丸の不思議そうな様子に、レンはがっくりとする。

「驚いてほしかった訳じゃあないんだ。ただ急に言われると戸惑うものなんじゃないか、と思っただけだ。」

鶴丸は困ったように笑った。

「まぁ、概ね原因は何なのかは分かりますから。
江藤からの電話でしょう?」

レンがそう返すと、鶴丸は目を瞠る。

「どうして…。」

「今日、瀬戸さんに番号の持ち主を調べてもらいましたから。どうも私のいない時を狙ってかけてきているようで。今日一日持っていても音沙汰がありませんでした。」

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