第53章 疑惑
――同日、夜半過ぎ――
レンは一仕事終えて、瀬戸と一緒に帰宅する。
「明日は休んでいいぞ。お疲れさん。」
「わかりました。」
瀬戸とレンはそれぞれの部屋へ向かった。
レンは扉をそっと開けて確かめると、まだ明かりが煌々と点いていた。
「戻りました…。」
レンがそろりと中へ入ると、鶴丸が振り向いた。
夜も遅いというのに、彼は起きて待っていたようだ。
「お、帰ったか。今日もまた随分とかかったな。」
「先に寝ていてもよかったんですよ。」
「近侍なんだ。主の帰りを待つのは当然だろ?」
レンが若干困り顔で見ると、鶴丸はにっと笑う。
「そんなもんですかねぇ。」
レンはそう言いながら、ベッドの上に置いてあったパジャマを持ち、シャワールームへ向かう。
簡単に汚れを落とすと、さっさと出てくる。ものの10分位だろうか。
それを見た鶴丸は困ったように笑った。
「まるで烏の行水だな。」
「いいじゃないですか。炭を被ったわけでもなし。」
レンは言いながら、首にかけたタオルで乱雑に髪を拭くとベッドに横たわる。
「まさか、そのまま寝るのか?」
「え?ダメですか?」
「…ダメに決まってるだろ。」
鶴丸はやれやれ、と一つため息をついて立ち上がり、シャワールームに置いてあったドライヤーと櫛を持ってくる。
そして、自分のベッドをぽんぽんと叩いてレンを手招きする。
「…自分で出来ますよ?」
「放っておいたらキミはやらないだろう?」
図星だ。
レンは思わず渋い顔をする。
「はやく、おいで。」
鶴丸は笑いながらレンを呼ぶ。
レンが渋々鶴丸に促されるまま座ると、彼は嬉々として彼女の髪を乾かしはじめる。