第53章 疑惑
「…出来たら聞かないでくれるとありがたいんだが…。」
「…七海さんも言いたがりませんでしたね。でも出来れば聞いておきたいんですが。」
雲行きが怪しい今、懸念材料は1つでも潰しておきたい。
レンがじっと見ていると、瀬戸は困ったように後ろ頭を掻きながら、やがて観念したかのように大きく息を吐いた。
「七海には1人姉貴がいた…。結論から言うと、お前んとこの刀剣に殺されてるんだ。」
レンは息を呑んだ。
七海は奥脇のことを敬称では呼ばないが、姉のことは”姉様”と呼んでいた。つまりそれだけ仲が良かったということだと考えられる。
「じゃあ、七海さんは刀剣達を恨んでるってことになりませんか?」
だとすると、彼女が大いに疑わしくなる。
復讐の為なら江藤だろうと、奥脇だろうと手を組むのではないか、とレンは訝しむ。
けれど、瀬戸は首を横に振った。
「いや、それはない。以前俺もそう思って聞いたことがあるんだ。そしたら、”姉様の死は致し方ないことです。一歩間違えば私も姉様の様になっていたでしょうから。”って言ったんだ。」
「どう”致し方ない”んですか?」
「七海もな、随分前に荒れててな。何振りか禍ツ神にも追い遣ってるんだ。
長谷部も禍ツ神になりかけてな、七海を殺そうとしたんだが、踏みとどまったんだと。
だから、姉貴の気持ちや状況がわかるんだとさ。
“成るべくして成ったこと”って言ってたぜ。」
「何故、話たがらないんですか?」
「…お前な。言えねぇだろうが、普通は。
いくらしょうがねぇことだっつったって、なるべくだったら思い出したくねぇことだと思うぜ。」
「…そういうものですか。」
どこか腑に落ちないながらもレンは頷いた。
「残念な奴だな、お前…。顔は綺麗なのに勿体ねぇの。」
瀬戸は呆れながらレンを見遣った。