第53章 疑惑
「七海さんのこと?」
「正確には七海さんのお姉さんのことなんだけど、ちょっと気になって。鯰尾は何か知ってる?」
加州は通りすがりの鯰尾を見つけて、七海のことを聞いてみる。
「お姉さん、ねぇ。ちらっとしか聞いてないんだけど。」
「大丈夫。何でもいいんだ。」
「う〜ん、言いづらいんだけど…。」
鯰尾はそう言うと、声を顰めた。
「禍ツ神に殺されて亡くなったって聞いたことあるよ。七海さん、お姉さんのことあんまり話したがらなくて、俺もよく知らないんだけど。」
加州は息を呑んだ。
本当だったのか、と。
「加州?大丈夫?」
加州は鯰尾の呼びかけでハッとする。
どうやら、そのまま固まってしまっていたらしい。
「へ?あ、いや。うん、大丈夫。ありがとう。ごめんね、変なこと聞いて。あ、あと俺が聞いたって内緒にしておいて。じゃあね。」
加州は早口で捲し立てるように鯰尾に告げると、走り去って行く。
「あ、うん。じゃあ…。」
鯰尾は怪訝な様子でそれを見送った。