第53章 疑惑
――数日後――
「鬱陶しいわね。またあの男からだわ。」
そう言うと七海は机の下に置いてあった2枚重ねの座布団の中にスマホを突っ込んだ。
音は切ってあるが、バイブまで切ってしまうと紛失の恐れがある為、切れなかったのだ。
座布団からはひっきりなしにブーブーブー、と振動音が聞こえて来る。
「お邪魔します。近侍交代の付き添いで戻ってきました。」
現代服を着たレンが、審神者部屋の障子からひょっこり顔を出す。
「あら、おかえりなさい。捜査は順調?」
「まずまずですね。叩けば叩く程出てくるみたいで特定は難しくないんですが、警備システム?がややこしくて。入ると防犯カメラに引っかかってしまうみたいなんです。場所を厳選して、ハッカー?を雇ってから出直しだって言ってました。」
レンは七海の近くに適当に座る。
「まぁ、大事な証拠をそう易々とは盗らせてくれないわよ。」
七海は皮肉気に笑う。
逆を言えば、易々と盗れるような証拠なら大した物ではないだろう。
「…七海様、悪いお顔になっていますよ。」
長谷部が少し呆れ顔を七海に向ける。
「やさぐれたくもなるわよ。さっさと降伏でも自首でもすればいいのに。毎日毎日飽きもせずひっきりなしに電話をよこすのだもの。」
「あぁ、奥脇ですか。」
レンは相槌を打つ。
「そうなのよ。もう勘弁してほしいわ。」
「スマホって大変ですね。電源切れないし。」
「当たり前じゃない。切ったら持っている意味がないわよ。
っていうか他人事ね。あなたも持っているんでしょう?」