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君に届くまで

第53章 疑惑



「そもそも何でみんなで逃げようと思ったんだい?君一人ならいくらでも逃げられるだろうに。」

燭台切は苦笑した。
危険を感じたならば、先ずは自分を優先してほしい、と彼は思う。

だが、それを聞いたレンは呆れ顔を向ける。

「あなたが言ったんじゃないですか。家族になろうって。」

燭台切は目を瞠る。
以前、確かにそう言った。言ったが…、

「その為だけに…?」

「家族はいつも一緒にいるものなんでしょう?私はただそれを守っただけです。」

燭台切の中に言い表せない程の喜びが湧き上がる。
心が震える、なんてことがあるのかと驚いた。
仮初の心臓が心地よい痛みをもたらす。

「レン…。ありがとう…!」

燭台切は喜びをそのままに表すようにレンを強く抱きしめる。
くるしい、とレンが文句を言うのもお構いなしだ。

燭台切が”家族になって”とレンに言ったのは、彼女を引き止める為の理由にすぎなかった。
レンが主になってくれるなら何でもよかったのだ。
レンは審神者に興味が無いようだから、一番確かな絆を持てる”家族”を選んだだけだった。

けれど、彼女はそれを守ってくれた。
それはつまり、彼女は自分達を仲間だと、家族だと思ってくれているということだ。
これが嬉しくないわけがない。

「なんだって言うんですか?」

突然自身を抱きしめる燭台切を、レンは不思議に思う。

レンは家族を知らない。
家族、肉親、と言われて思い浮かぶのはリヨクしかいない。それも、血のつながりは無い上、とても普通とは言えない環境下にあった。
知らないから、ただ”こうあるもの”という燭台切の考えに倣っただけだ。
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