第52章 審神者代理
その言葉を聞いて、七海はそっぽを向いていた顔を戻して、驚きに目を瞠った。
「そんなに驚くことないでしょうよ。」
レンは不思議そうに七海を見返す。
「忍者だってことは聞いてたけど、知らなかったから…。あなたも親に?」
「いいえ。孤児院から売られた形ですね。」
「売られた…!?」
七海は更に驚いた。
「孤児院の援助金と引き換えに、里の裏の組織に連れて行かれたんです。」
七海、長谷部、瀬戸は絶句する。
「よく、世を恨まなかったな…。」
瀬戸は呟くように零した。
「まぁ、そこで得たものもありましたから。こうして生きる糧にもなってるんで、そう悪いことでもありませんよ。」
瀬戸は言葉が見つからず、あっけらかんと言ってのけるレンを感嘆の眼差しで見る。
誰もが彼女のように受け止められはしないだろう。
少なくとも自分だったら。
自身の境遇を呪ったし、復讐しようとしただろうな、と瀬戸は思う。
鳴狐はレンの頭を柔らかく撫でる。
レンが鳴狐を見遣ると、彼にしては珍しく僅かに微笑んでいた。
「…鳴狐も信じる。」
彼の言葉にお付きの狐も頷いた。
「わたくしたちもあなたに倣うことに致します。」
「それは、どうも…。」
レンは慣れないことをされて、そわそわとする。
頭を撫でられるなんて、生きてきてそう無いことだった。
成り行きを見ていた太鼓鐘は、突然膝を打つ。
「よし、俺もレンに一票!」
「じゃ、俺も一票!」
太鼓鐘に続いて、厚も手を挙げる。
「はいはい!ボクも!」
「僕も!」
「僕は最初からそう思ってたし。」
「嘘つけ!」
乱、五虎退、大和守、加州が手を挙げ、それに触発されたかのように、全員が手を挙げて賛同を示す。
「まぁ、場が落ち着いたと言うことで、話を進めてもらっていいですか?」
レンは撫でられたまま、くるりと七海を振り返る。
「…ぷっ…!ふふふ…。あははは!」
七海は、レン達を見ていて可笑しくなって、つい吹き出してしまった。