第52章 審神者代理
そんな時だった。
ぼろぼろになった長谷部の様子が変わったのは。
禍ツ神へと変貌する彼を、七海は虚無の心境で眺めていた。
「主、様…、どうして…、どうして…、あなたは…!」
七海は、長谷部が手を伸ばし自身の首を締めるのを、他人事のように眺める。
苦しみを感じた時に安堵した。
ーやっと楽になれる。
七海は抵抗することなく、目を閉じた。
「…な、ぜ…。」
くぐもった声で長谷部は七海に問いかけ、同時に長谷部の手が緩む。
けほっ、けほっ、と咽せて呼吸を再開した七海は、長谷部に食ってかかった。
「殺したいんでしょ!?殺せばいいじゃない!!」
七海の目には涙が溢れていた。
「生きていたくないのよ!!楽にさせてよ…!!」
縋るように詰るように長谷部の服を掴む手は、強く握られ震えていた。
怒りに震えていたのか。
恐怖に震えていたのか。
或いは、両方だったのかもしれない。
長谷部から邪気が、すぅーっと抜けていく。
ー俺は、あまりにこの小さな人のことを知らなすぎる。
「あなたの声を、聞かせてください…。あなたが何を思っているのか。どうして死にたいのか…。訳を、話してください。」
そう問われて七海はハッとする。
今までそんな風に自分のことを聞かれたことがなかった。
“主”として見られることはあっても、”七海”としての自分には目を向けられなかった。
見せようともしなかった。
見てほしかったのかもしれない。
辛さをわかってほしかったのかもしれない。
七海は力が抜けたように膝から崩れ、声を上げて幼子のように泣いた。
長谷部はそんな七海を抱きしめて一緒に泣いていていた。
それからは2人に段々と絆が出来き、七海が荒れることも徐々に少なくなっていった。