第52章 審神者代理
「政府は、この本丸を焼き討ちした上、抹消申請まで出してたんだって。」
乱も口を挟んで肩を竦める。
さゆりはそれを聞いて瞠目する。
政府のやりようには唖然とするばかりだ。
他が火事跡のようになっているのは、そういうことかと納得する。
それに刀剣が現存しているにも関わらず、抹消申請を出すなんて受理される筈がない。
「…管狐を消さない限り、抹消申請は通らない筈よ。」
「その管狐だけど、五稜郭で結界に閉じ込められて邪気まみれにされてたよ。俺とレンが行かなきゃ、今頃こんのすけは死んでたんじゃない?」
さゆりは驚き呆れ果て、口をあんぐりと開ける。
「管狐を邪気まみれにしたですって?」
「ヤモリのような蛇のようなものが、こんのすけの筒を抱えてたよ。レンはそいつから黒い靄が出てるって言ってた。黒い靄って邪気でしょ?」
加州はそう言って肩を竦める。
さゆりは眉をぴくぴくと動かしながら、額に手を当てた。
その特徴には覚えがある。
最近、従兄から聞いたばかりだ。
尤も、彼も見たのは死体だったのだが。しかし、珍種には違いない。
生きているそれに触れた者は、酸をかけられたように爛れていたという話だ。
邪気で人の皮膚まで溶かしてしまうなら、妖である管狐が本体である筒に触れただけでも、相当な苦痛を齎らすに違いない。
「…五稜郭に入ったのもあなた達だったのね。」
さゆりは大きくため息をつくと、着物の袂からスマホを取り出した。
彼等が興味津々に見ていると、
「長谷部、至急調べてほしいのだけど。派遣先で前に入っていた審神者が誰か調べてちょうだい。
…なるべく急いで。……ええ。お願いね。」
と言って電話を切った。
「長谷部?あんた他の本丸の主なのか?」
薬研が首を傾げる。
「ええ。兼任することになったの。ちょっと出てくるわね。」
さゆりはすっと立ち上がると、軒先に向かう。
「いってらっしゃーい。戻らなくてもいいよー。」
「馬鹿おっしゃい。ちゃんと戻るわよ。」
加州がさゆりに冗談混じりに言うと、真面目に答えが返ってきた。
そして、その日は一日戻ることはなかった。