第51章 反撃
同日の夜半過ぎ。
江藤に妹からの着信が入る。
こんな時に、と苛々しながら電話に出た。
「何だ。」
また泣き縋るつもりなのか、と暗に含ませた物言いだ。
『…お兄様。私は実家に帰らせていただきます。』
いつになく沈んだ声だった。
「…どういうことだ。」
江藤は妹の言葉が理解できず、聞き返す。
『…どうもこうもありません。あのような所で死ぬくらいなら実家に帰って死んだ方がマシです。』
その言葉に江藤は頭に血が登る。
ー俺はこんなに苦労して方々調べ回っていると言うのに、人の苦労も知らないで…!
「お前は自分が何を言っているのかわかっているのか!?お前が審神者を下りれば家が…」
『お取り潰しになると言うのでしょう!?わかっていますわよ!!』
妹は江藤の言葉を遮り、怒鳴り返す。
『だけれど…、もう…、限界なのです…!』
啜り泣く声が、電越しに聞こえて来る。
ただ事ではない、と江藤は思う。
「何が…、あった…?」
半ば呆然としながら、江藤は問いかける。
『…魂縛りの呪が破られました…。お兄様から頂いたお札を持ってしても…、あれらを御することは…出来ませんでした。それどころか…、殺されかけました…。』
さめざめと泣く妹の声が電話越しに響く。
ーまさか、審神者にまで…。
江藤は愕然とする。
「傷は…、傷はあるのか…?」
或いは傷はがあれば、それを理由に解刀が出来るのではないか。
一縷の望みをかけて問うてみるも、
『…まだ、刀を突きつけられただけです。…明日までにどう刻まれたいか決めておけと…。明日の朝に”全員で”私を訪ねるからと…。』
そう言って妹は泣き続ける。
妹もあれを味わったのかと思うと、もう一度戻れとはとても言えなかった。
江藤は力なく、電話を耳から離す。
もう、何も考えられなかった。