第51章 反撃
女の言葉に鶴丸の怒りが膨れ上がった。
すると、ぷちんと糸が切れたように鶴丸の体に自由が戻る。
「伽羅坊!!貞坊を思い出せ!!」
鶴丸は、未だ呪が断ち切れない大倶利伽羅の刀を受けて、彼に発破をかける。
鶴丸の言葉を受けて、大倶利伽羅の脳裏に傷だらけで静かに横たわる太鼓鐘の姿が過ぎる。
まるで死んだようだった。
貞をあそこまで追い詰めたのは人間だった。
許さない。
許せない。
ヒュン、と音を立てて突きが繰り出される。
大倶利伽羅の刀は、太刀筋をギリギリで躱した鶴丸の頬を少し切って漸く止まった。
鶴丸はニヤリと笑い、大倶利伽羅を見た。
大倶利伽羅も、ニっと笑って鶴丸を見る。
「…どう、いうこと…?」
女は目の前の現実が受け入れられず、力なくソファーに座り込んだ。
文字通り、最後の切り札は脆くも崩れ去る。
「さて、審神者殿。覚悟はいいか?」
鶴丸は頬の血を手の甲でぐいっと拭うと、つかつかと女に近づいていく。
そして、カチャリと音を鳴らして刀の切っ先を、女の眉間にぴたりと当てた。
女は恐怖で震えながらその切っ先を見る。
「目には目を。殺意には殺意を持ってお応えしよう。お前はどう刻まれたい?」
鶴丸は仄暗い笑みを浮かべた。
その様は、儚げな雰囲気とは程遠い、白い大蛇を思わせる。
女は小刻みに全身を震わせながら、言葉を発することが出来ずに、ひたすらに小さく首を横に振る。
「答えられないか。ならば時間をやろう。1日だけ待ってやる。」
そう言うと、鶴丸は自身の刀を鞘に納めた。
「明日の朝、またお前の元を”全員で”訪れる。
それまでに答えを出しておいてくれ。」
じゃあな、と言って振り返りもせず去っていき、大倶利伽羅、乱、五虎退がそれに続いた。
女は解放された安堵から、震えながら自身を掻き抱き蹲る。短く荒い呼吸の合間に、小さく啜り泣く声が聞こえていた。