第51章 反撃
突きつけられた鋼は研ぎ澄まされていて、間近で見ると俄かに恐怖が湧き上がる。
「俺達が審神者に従う義務があるなら、勿論、審神者から受ける恩恵があるんだよね?それって何?」
江藤は、突きつけられた鋼から恐る恐る加州に視線を移す。
その表情は、憤慨の様子を全面に出し、瞳は鋭く狂気を思わせる。
立ち登る殺気が全て自分に向けられていると思うと、指を動かすことさえ戸惑われた。
江藤は、恐怖でごくりと唾を飲む。
「何って聞いてるんだよ。答えろよ。」
加州はカチャリと刀を鳴らし、顎のすぐ下である首元に切っ先を触れさせる。
「も、申し訳、御座いません。」
江藤は顔を青褪めさせながら震える声で謝罪を述べる。
しかし、加州は刀を下げなかった。
「…今後、二度と。俺達と審神者とのやりとりに口を挟むな。お前は部外者だってこと忘れるなよ。」
「…承知、致しました。…出過ぎたことを、致しました。」
江藤は頭を下げるより他なかった。
子犬だと思っていた。
どの本丸を見ても、刀剣は飼い主に戯れつく犬のようだと。
禍ツ神になるのは、牙を向けられるのは、躾が悪いからだと。
だが、そうじゃない。
これは魔犬だ。
鋭利な牙を持つ獰猛な化け物。
その気になればいつでも人の首など引きちぎれる。
ー聞いてない。こんなの聞いてないぞ…!
すっと江藤から刀が引かれる。
カチャリと音がして、加州が刀を納めたのだと理解した。
それを合図に江藤はのろのろと動き出し、覚束ない足取りで審神者の住居棟へと戻って行った。