第51章 反撃
加州は、命令通りにお茶を広間から審神者の棟へと持つ。
「お茶をお持ちしましたー。」
玄関の前に立っていた黒服の男にだるそうに声をかけると、その男は少し眉を顰めて道を開ける。
「入れ。」
「失礼しまーす。」
中に入ると別の黒服の男が立っていて、無言で顎をしゃくって付いてくるよう促してくる。
玄関を上がって廊下を左に行くと吹き抜けの大きなリビングへと通された。
「遅かったわね。何してたの?」
女は加州を半眼で見遣りながら嫌味を言い放つ。
「ごめんねー。手間取っちゃって。」
少しも侘びれる気がない様子で言葉だけ謝罪する。
それは女にも伝わり、女は不愉快そうに顔を顰めた。
「はい、お茶。じゃ、俺帰るから。」
加州は盆から茶の入った湯呑みをテーブルに置くと、さっさと帰ろうとする。
「まだ帰っていいとは言っていないわよ。」
女は険しい目で加州を睨みつけるように見遣る。
加州はそれを聞くと、無表情のまま素直に従い、そこで待つ。
「お茶を持ちなさいって言ったら普通は給仕するものなのだけれどね。」
「ごめんねー。俺刀だからわかんない。」
女は刺々しく嫌味を言い放つが、加州は全く取り合わない。
女は苛々とした様子で加州が持って来た湯呑みに手を付ける。そして一口飲んで思い切り咽せた。
「何なのよ!これ!」
緑茶には程遠い、只々苦いだけの旨味なんぞあったものではない液体だった。
「え?お茶でしょ?」
加州は空惚けて聞き返す。
中身は薬研が採って来た薬草を煎じた残り滓だ。
「こんなのがお茶なわけないじゃない!ふざけないで!もういいわ!あなたは使えない。鶴丸を呼びなさい!」
女は怒りに任せて金切り声を上げた。
「え?誰それ?」
命令を受けた加州は、口に手を当て考える素振りをする。
「鶴丸国永よ!」
女は苛々と怒鳴るが、加州は意に介さない。
「誰だっけ…?特徴は?どんな人?」
「バカにしてるの!?」
「ごめんねー、俺バカだからわかんなーい。」
女はいよいよ顔を真っ赤にして、わなわなと震え出す。
「出ていきなさい!!」
「はーい。」
加州は、まんまと命令を受けることなく住居棟を後にした。