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君に届くまで

第7章 五虎退の頼み



「何故、後をつけていたのですか?」

レンが問うと、その子は俯いてしまう。
その時、その子の周囲から、ぶわりと黒い靄が吹き出した。
寒々しい近寄りたくない空気、邪気だ。
レンは反射的に2、3歩仰け反るように後ろに下がった。

「ぼ、僕の、兄弟を…。兄さんを助けてほしいんです…!」

その子は、胸の子猫をぎゅっと抱きしめながら伝えてきた。

よく見ると、抱いているのは小虎の様だ。
それにその子の頬や腕や大腿には、切り傷や擦り傷が無数にある。
血の匂いが濃い様に思うが、どこかに大きな傷があるのだろうか。
と、取り留めのない事を考える。

出来れば関わり合いにはなりたくない。

それでも、レンは疑問に思うことを聞いてみる。

「あなたの兄弟を助けてほしいのですか?
あなたが助かりたいのではなくて?」

ーその子の状態は満身創痍な筈だが、それを差し置いて兄弟を助けてほしいとはどう言う事だ?

レンは思った事を聞いただけなのだが、その子にとっては意外だったのか、目を丸くしてレンを見上げた。

「ぼ、僕はいいんです…!痛いけど、我慢できます…。
でも、でも、兄さんが、僕を庇って、じ、重症になって、しまって…。
だ、だから、だから…!」

「あなたを庇って?」

レンは引っかかりを覚える。

「はい…。本当は、僕が折れる筈、だったんです。」

その子はそう言って俯いた。また靄が広がる。

「折れるとどうなるのですか?」

レンが聞くと、その子は益々俯き、靄も濃くなる。
彼女は反射的に逃げたくなるのを堪えて踏み止まった。

「消滅、します。」

「死ぬ、みたいな感じですか?」

「はい…。消えて、なくなります。」

「消滅するあなたの代わりに、あなたのお兄さんが庇って重症になった?」

「…はい。」

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