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君に届くまで

第7章 五虎退の頼み





ある雨の日の昼下がり。


レンは広間の縁側で、膝を抱えてぼーっと外を眺めていた。まだ寝間着のままだ。
雨の日の探索は、視界が悪く足元も滑りがちで効率が悪くなる為、行くのを止めたのだ。

あれから、燭台切からは元気出して、と励まされたが状況が芳しくないだけに立ち直れない。

鬱々とした時間が過ぎていく。

「だめだ。なんかしてないとダメになる。」

レンは徐に立ち上がり、いつもの服に着替えると、広間を出て本丸を散策し始めた。



思いの向くまま、本丸の中を右へ左へと進んでいく。殆どが閉め切られて、中を窺い知る事は出来ない。

人の気配はあれど動きがなく、どことなく寒々しい様な禍々しい様な何とも言い難い空気が漂っている。
邪気、なのだろう。
雨の日独特の薄暗さも相まって、不気味な事この上ない。
レンは小さくため息をつきつつ、鬱々とした気分を抱えたまま当て所なく歩き続ける。

ふと、後ろから一定の距離を保ちながら着いてくる気配があった。それも良くない何かだ。
レンが止まると後ろも止まる。振り返っても姿は見えない。

ー何だろう?

レンはわざと入り組んだ場所を選んで進む。

曲がり角を幾つか曲がった所で素早く天井に飛び移った。
すると、ふわふわの白い髪の子がそろそろと顔を出した。
胸に何かを抱いている。猫だろうか。
その子は曲がり角から覗いて、レンがいなくなった事に驚いたのだろう。焦った様に出て来た。
きょろきょろと探している。

レンはその子の後方に音を立てずに降りると声をかけた。

「私に何か御用ですか?」

すると、ひっ、という小さな悲鳴をあげて、その子は尻餅をついてしまった。
見ていて可哀想なくらいに震えている。

「あ、あのっ、ぼ、ぼく、ぼく…。」

それきり、その子はぶるぶると震えたまま黙ってしまった。
言葉にならないくらい驚かせてしまったのだろうか。

ーそういえば、忍術を知らないんだっけ。

「驚かせてしまったのならすみません。
後をつけられていたみたいだったので、理由を知りたかったんです。」

レンがそう言うと、その子は少し目を丸くして驚いていた。よかった、震えは止まった様だ。
だが、まだ黙ったままなので、何故つけられていたのかは謎だ。
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