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君に届くまで

第46章 新たな主



『…あるじ…の…、…こち…ですぞ…。』



何処からかくぐもった声が聞こえてきて、レンはふと目を開ける。
起きている感覚はあれど、何故か体の感覚がない。
しかし、拘束されている感覚は無く、自由に動ける。

右へ左へ視線を動かし、声の主を探すも見当たらない。

『…こ…らへ…、…ちらで…。』

どうやら呼ばれているらしい。
だけど、レンは面倒になってしまう。
それというのも、矢鱈と体が重いのだ。
頭も靄がかかったようにすっきりしない。

ー動きたくないな…。

停滞する頭でそんなことを思っていると、急に手を取られて後ろに引っ張られる。
釣られて前を見ると、知らない青年がレンの手を引いて何処かへ歩いている。

連れて行かれている、と思考が回らないながらも、ぼんやり異変を感じていると、段々と楽しそうな声が聞こえてくる。

知っている声だ、とレンは思う。
だが、誰の声なのか思い出せない。

『…あな…をよんで…ますぞ…。』

手を引く青年が話しかけるが、くぐもった声でよく聞こえない。まるでこの青年とレンとの間に壁が一枚ある様だ。

やがて、川辺りに辿り着くと青年は急に立ち止まり、レンの手を離す。
真っ白な空間に、小川だけが流れているのは何とも不可解な図だ。左右を見回してみても、目ぼしいものは何もない。石も草も木も無い。正に”無”の空間だ。

『…おいきなさい…。』

いつの間にかその青年はレンの背後に回っており、耳元でそっと話す。
とん、と背中を押されて小川に足を突っ込んでしまった。
あっ、と思う間も無く下へと落ちる感覚に襲われる。
怖いと思うよりも先に意識が暗転した。
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