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君に届くまで

第46章 新たな主



「鶴さん、交代するよ。」

「光坊。もうそんな時間か。じゃ、俺達は休憩に入るとするか。」

代わるよー、という声かけと共に刀剣達は次々と交代していく。




「いやー、この季節でもこの重労働はきっついな。」

そう言って額やうなじに流れる汗を拭う。

「…お茶。」

「小夜坊、気が利くな!ありがとさん。」

鶴丸は小夜からお茶を受け取ると、小夜の頭をわしゃわしゃと撫で、小夜は嬉しそうにそれを受け止める。
小夜がパタパタと駆けて行くのを見送って、鶴丸は湯呑みを持ったまま縁側に腰掛ける。

今日は清々しい程澄み渡る青が広がる秋晴れだ。時々流れる小さな雲の対比が実に見事だ。こんな時は秋桜と一緒に見たいものだが…。



『綺麗ね…。』

『うむ。実に見事だな。』

いつか行った秋桜畑を、ふと思い出す。

あの時は初代と三日月が一緒だった。あの日も雲一つない澄み渡る秋晴れだった。
濃い青の下で風に揺れる一面の秋桜はそれはそれは美しいものだった。

「秋桜か…。いつか植えてみるのも悪くないかもな。」

鶴丸は穏やかな日差しを全身に浴びながら心地よい時間を堪能する。
振り返れば仲間がいて、レンを囲んで何やら雑談をしている。
少し前までは考えられなかった光景だ。


ふと、鶴丸の中に言い表せない感情が込み上げる。

喜びが大半を占めるが、一抹の寂しさは叫びだしたくなる程胸が抉られる。

消えていった者達とも一緒にこの時間を共有出来たなら…。
どんなに求めても戻らないと分かってはいても、求めずにはいられない。

けれど、それを上回る程の喜びもあるのも確かで。
レンが主になった、それだけのことではあるが、飛び上がりたくなるほどの幸せが彼の中に渦巻く。

鶴丸は感情の落とし所に迷う。

「…やれやれ、当分は落ち着けそうにないな。」

彼は少し温くなったお茶を一気に飲み干した。
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