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君に届くまで

第46章 新たな主



実は、事の始まりは昨晩からでした。



わたくしは眠る事が出来ず、一人縁側で月を眺めていました。

「眠れないんですか?」

すると、主様が起きてきたのです。

「…はい。もう長くはない命と思うと、何だか名残惜しくて。」

「そうですか。」

「レン様こそ、眠れないのですか?」

「あなたに聞きたいことがありまして。」

「何でしょうか?」

「帰りは政府の転移装置を使うしかないんでしょうか?他の方法は本当に無いんですか?」

主様は皆様の退路を探っておいででした。

「…方法は、一つだけ御座います。しかし、限りなく不可能に近いかと思います。」

「教えてください。」

「あなた様とわたくしが主従の契りを結ぶことです。」

「それは私が審神者になる、ということでしょうか?」

「はい。それが出来れば、あなた様はこの本丸と魂が結びつき、刀剣達を自由に行き来させることが出来るようになるでしょう。」

「…魂が結びつく、ですか。そうなると私は生涯ここに縛られることになりますか?」

「…御察しの通りです。審神者となれば、あなた様は生涯国元へ帰ることは出来なくなります。」

そう。本来審神者とは、生涯をこの本丸に捧げ、刀剣を支えるのが役目なのです。
一度契りを交わしてしまえば出ることは叶わない。
契りを外すことが出来るのは、死の間際のみです。節子様の時の様に。

「そして、その契りが結べる場所は、五稜郭にある儀式の間のみで御座います。」

「…成程。それは現実的な案ではありませんね。それに里へ帰れなくなるのは困りますし。」

そう言って主様は月を見上げました。

本当は主になってほしいとお願いしたい気持ちはありました。
そうすれば、申請の撤回は出来なくても中断させることは出来るので。

けれど、出来なかった。
通りすがりにすぎないこの人には荷が重いと思いました。

「因みに私が審神者になった場合、この本丸はどうなりますか?」

「抹消申請は少なくとも受理されることはありません。あれは審神者が不在の本丸に限り有効であるので、審神者が立てば申請に矛盾が生じてしまいますから。」

「わかりました。聞きたいことは以上です。ありがとうございました。
あなたも少しでも寝た方がいいですよ。」

そう言って主様は床へ戻られました。
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