第43章 束の間の休息
「ねぇ、こんのすけはどうして政府に逆らおうと思ったの?」
ずっと黙っていた乱が口を開く。
「…大したことではありません。
今の政府のあり方に疑問を持ったからです。」
「疑問、って?」
こんのすけは遠くを見やり、昔を懐かしむ。
その瞳には淋しさが色濃く滲む。
「今まで様々な本丸や審神者を見てきました。
政府が発足された当初は本丸もまだ少なく、刀剣男士達はもちろん、審神者も少なかった。
だからでしょうか、とても目が行き届いていて、各本丸がしっかり運営されていたのです。それはそれは皆さんお幸せそうにお過ごしになられていました。
しかし最近は、本丸の数も増え、政府も大きくなり、人が増えました。その分、組織は細分化され、目が行き届かなくなったのです。
本来は、審神者は厳正なる審査のもと、気質の適正、人柄の適正まできちんと精査されていました。
しかし、近年は政府の血縁者がコネで審神者に推薦され、適正も碌に見る事無く霊力があるからと本丸に配属になるのです。本当は縁者というだけでは、審神者に配属してはならないのです。」
こんのすけの言葉の端々に滲む憤りは、管狐としてのジレンマを感じさせるものだった。
彼等は黙ってこんのすけの言葉に耳を傾ける。
「結果、好き勝手に荒らされ、汚され、邪気に満ち溢れ、刀剣男士達は禍ツ神へと変容する事例が後を立ちません。
…この本丸もそうでした。
しかし、あなた様がいらして本丸の邪気が薄らいだのです。好機と思いました。もしかしたらこの本丸は立て直せるかもしれない、と。」
こんのすけはレンを見る。
こんのすけにとって、レンはまさしく一縷の望みだった。
「邪気に満たされた本丸を、清浄に戻せる審神者は未だかつていなかった。あなた様が初めての事例です。…しかし、上手くいかないものですね。この本丸を担当する役人が目敏くそれを見つけたのです。
前の審神者は、前田様のお嬢様でした。」
「それって…。」
「…もうお分かりですよね。
自分達の縁者より優れた者が審神者に就くのは、自分の面目が立たない。自ら立ち直る本丸の存在も許せないのです。
私はしがない管狐です。政府の遣いなのです。わたくしに出来ることは、これが精一杯で御座いました。」
こんのすけは悲しみと苦しみを滲ませて、そう締め括った。