• テキストサイズ

君に届くまで

第42章 囮


門の近くまで来ると、レンは走るのを止める。屋根の端の方まで歩くと態勢を低くした。
そっと縁から見下ろすと、門の前は人でごったがえっている。人の怒号と笛の音が飛び交い、人が押し合いへし合い我先にと、門の外を目指す。

「…これ、レンの影響?」

「さぁ。何とも言えません。たぶんですが、影分身が相当暴れてるんだと思いますよ。」

「もしかして誰かを殺したり…。」

「無いですよ。そんな不確定要素を生むようなことはしないと思います。」

レンは、そう言って首を横に振る。

暫し下を眺め、ふと思いついたように加州を見た。

「この人波に紛れて出ましょうか。」

「え?俺達顔割れてるんじゃないの?」

「だとしてもこの混雑ぶりですよ?」

加州は暫し逡巡する。
どうせ、塀は越えられない。
この門を潜るしか外に出る方法が無いのなら、一か八か賭けるしかない。

「よし、やるだけやってみよう。」

レンは加州が同意したのを聞くと、階下から見えないように立ち上がり、大きめの木がある所まで戻る。

「じゃ、降りますよ。声を立てないでくださいね。」

レンは加州を抱え直し、屋根の縁に足を掛ける。

「ま、まさか…!」

加州が止める暇も無く、レンはそこから飛び降りた。
落下時特有の浮遊感が加州を襲う。

「ひっ…!!」

途中でストンという小気味のいい音をさせて、木に飛び移ると、休む暇なく地面目掛けて落下し、殆ど音を立てることなく、芝生の上に着地した。
加州はあまりの恐怖に言葉も無く、レンの襟首に掴まったまま固まって動けない。

「あの…、加州さん?もういいですよ?」

いつまで経ってもしがみついたまま離れない加州を不審に思い、自分を掴んでいる腕をぽんぽん、と叩くと、加州はズルズルとずり落ちて、そのままへたり込んでしまった。

「…大丈夫ですか?」

レンの問いかけに、加州は声も出せずに首を横に振った。
/ 1263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp