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君に届くまで

第42章 囮



――時は遡り…。――


「何だ!何の騒ぎだ!」

「水遁、霧隠れの術。」

影分身が目眩しを発動させると、本体であるレンが隠し部屋から飛び出し、影分身に駆け寄る。

「影分身の術。」

レンは影分身をもう一体出すと、その影分身は加州に変化する。

「後は、任せる。奴が出てきたら…」
「出来るだけ引きつける、だろ?」

レンは影分身の答えに頷いた。

「頼んだ。」

影分身達は頷くと、部屋の出口に向かって走り出す。

「逃げたぞ!」

「追え!!」

男達の怒鳴り声が響き、次いで複数の足音が部屋から走り去っていく。
部屋は再び静寂に包まれる。

レンはドアからそっと顔を出し、霧で見えなくなった廊下を見回して耳を澄ませる。近づいてくる音がしないことを確認して、なるべく音を立てずにそっとドアを閉めると、氷華縛でドアを丸々凍らせ出入り口を塞ぐ。
それから、部屋の真ん中で気絶している男の手足を氷で拘束した。

「よし…。」

レンは、ソファーの後ろに隠れている加州を呼びに行く。

「加州さん。」

「ひっ…!!」

突然横からポンと肩を叩かれた加州は驚きで、悲鳴をあげて飛び上がる。

「あー…、すみません。そこまで怖がっていたとは思わなくて…。」

一言余計だ、と加州は思わなくもなかったが、言い返すだけの余裕が無い。

「だ、大丈夫…。それよりここからどうするの?」

加州は、まだ激しく脈打つ心臓を押さえながら、レンに指示を仰ぐ。

「別に大したことはしませんよ。ここの人達が上手く囮に食いついてくれたみたいなんで、後はここを蹴破って出るだけです。」

レンは何でもないことのように言うが、この部屋には窓が無かった。窓の代わりに厚いガラスが数枚嵌め込まれていて、それは簡単に壊せるような物には見えなかった。

「氷遁、氷柱槍。」

レンは槍を生成すると、思い切り振りかぶり、手近な窓に真っ直ぐ投げつける。
だが、窓には拳程の球状の跡が白く残っただけで、槍の方が、ばらばらに砕けてしまう。
穴は空けることは出来たには出来たが、虫が一匹通れるか否かの小ささだ。
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