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君に届くまで

第5章 審神者任命



「…何もしなくていいんですか?」

「はい。何も。」

レンは困惑気味に燭台切に目を向ける。

「…こんのすけが何もしなくていいって言うのなら、そうした方がいいんじゃないかな。
それに君はまだ怪我が完治している訳じゃないだろう。
だったら、休息が必要じゃないのかい?」

「怪我をされているのですか?」

こんのすけは驚いた様にレンを見上げた。

「ならば、わたくしは一度戻り、薬をお持ち致します!」

そういうとポンと言う音と煙と共に消えてしまった。
引き止める暇も無かった。



暫し無言の時間が流れる。

「…私がここに住む事を反対しないんですね。」

レンが切り出すと

「住むだけならね。」

含みのある答えが返ってきた。
最初に鉢合わせた時の様な空気感だ。

「何故、警戒するのか聞いても?」

「なんで警戒していると思うの?」

「最初に剣を向けられた時と同じだなと思ったので。
何か、あなた方にとってよくない事をすると思われているからこその”拒否”ではないですか?」

「…馬鹿では、ないみたいだね。
立ち話も何だから座って話そうか。
僕は、お茶を入れてくるよ。」

燭台切はレンを縁側に促し、厨へと歩いて行った。





2人は揃って縁側に腰掛けた。
レンは、彼が持って来てくれた濡れタオルで足を拭き、入れてくれたお茶を飲む。
そういえば、起きてから何も口にしていないな、とレンは思う。
温かいお茶が胃に染み渡り、ほっと息をついた。

燭台切はその様子を横目で見つつ、昔は良かったんだ、と話を切り出す。

「最初の主はお年を召した女性だったんだ。あったかくて優しくて…陽だまりの様な人だった。
ご高齢に審神者業はこたえたんだろう。すぐに亡くなってしまったんだ。

暫くして、後任が来たんだ。若い娘だった。
僕達は初代の様な人相を思い浮かべてたんだけど、見事に裏切られた。
高慢で女王様気取りで。
僕達を様々な戦場に出して、怪我を負っても治しもしない。折れたらそのまま打ち捨てる。
時には兄弟同士で殺し合いをさせたりもしていたな。

文字通り、アレにとって僕達は物でしかなかった。

そんな扱いをされ続けるとね、段々心が疲弊してくるんだ。
一人、また一人と禍ツ神に堕ちていった。」


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