第36章 新しい主
「…、…さん、加州さん。」
控えめに呼ばれて振り向くと、レンが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫ですか?」
心配してくれるのは嬉しいが、
「顔、真っ黒。」
真っ黒なままじゃ、締まりがない。
なんだか可笑しくなる。
「あははっ。」
嬉しくて、哀しくて。
笑いたくて、泣きたくて。
感情が大忙しだ。
レンはそんな俺を怪訝そうに見るばかりで益々可笑しくなる。
「あはははっ!」
あまりに笑ってたらレンが不貞腐れてしまった。
「ごめんごめん。節子さんのこと思い出してたから、つい。」
「理由になってないと思います…。」
レンは仏頂面を浮かべる。
節子さんと比べて、強くて、男勝りで、淑やかさがまるでないけれど。
けれど、この人が俺が選んだ人。
「レン、あんたが俺の新しい主だ。」
俺はレンを抱きしめながら呟いた。