第36章 新しい主
それからも、順調に増えていって、あっという間に30近い刀剣が顕現した。
さぁ、これから強くなるぞって時に、節子さんの体調が急変した。
頻繁に倒れるようになって、起き上がれなくなって、やがてここにもいられなくなった。あっという間だった。
本丸で過ごす最後の日、俺は寂しくて哀しくて、節子さんの側を片時も離れなかった。
「節子さん、俺、他の主は要らない。節子さんだけでいい。節子さんが最初で最後の主だよ。俺はあなたに、あなただけに忠誠を誓う。」
「清光…。」
「だからどうか、どうか俺も一緒に連れていって。きっと役に立つよ。あなたを守る。」
俺は縋る様に節子さんに懇願した。
彼女と離れるなんて、耐えられなかった。
節子さんを忘れて新しい主を迎えるなんてできないと思った。
「清光…、ちょっとこちらへいらっしゃい。」
節子さんに呼ばれるまま、寝ている彼女の側に寄ると、彼女は手を伸ばし、人差し指と中指を俺の額に当てた。
たぶん、この時封印を施されたんだと思う。
「大丈夫よ。これから少し辛い時間が訪れるけれど、あなたの主はきっと見つかるわ。生きて、清光。生きて幸せを掴んで。あなたなら出来るわ。」
俺はその言葉に応えることが出来ずに、彼女の手を握って突っ伏した。涙が溢れて止まらなかった。
彼女が撫でてくれる手が心地よくて一等温かかったのを今でも覚えている。