第35章 禍ツ神の正体
「何を甘っちょろい事を…。」
それを聞いていたレンは、やれやれと言わんばかりだ。
「コレが仲間だったとしても、自身の命を狙われたなら、躊躇ったらダメです。ちゃんとトドメをさしてください。でないと、簡単に命をあげてしまうようなものですよ。」
「キミは…、仲間を斬れと言うのか…。」
鶴丸は呆然と呟く。
「仲間を斬れとは言いませんが、この姿になったら言葉は通用するとは思えません。殺意を向けられたなら、殺意で応えるべきです。」
レンは毅然と返す。
「躊躇してたら、守りたいものも守れなくなりますよ。」
その言葉に彼等は、はっとする。
元は仲間と言えど、今は時間遡行軍に成り果てた。ならば自分達に取れる道は、もう一つしか残ってはいない。
刀剣の使命は時間遡行軍を滅し、歴史を守る事。
そして審神者を守る事。
躊躇していたら守れない。
レンは彼等の目に力が戻ったのを見て取り、次に掛かる。
頭を鷲掴みにし、生命の感触を探す。こちらの方が生命の力が強い。
ゆっくり慎重にチャクラを流していく。
靄が薄らぎ、誰かの影が見えた。
黒髪で、紺色のスーツ、赤い飾り紐。
ー誰だ?
「堀川!?」
大和守が悲鳴の様な声を上げる。
レンは殊更慎重を期してチャクラを流していくと靄が晴れていく。
「堀川!」
加州と大和守が駆け寄った。加州の呼びかけに、堀川と呼ばれた少年は薄ら目を開ける。
「ここ、は…?」
レンは、手を離して正面に回り込み、顔を確認する。
見覚えがある顔だった。
初めてここにきた時に加州達と一緒にいた子だっただろうか。
「堀川!よかった!戻っ…」
堀川と呼ばれた少年の体が瞬く間に光出す。
光の粒子が拡散し、姿が徐々に消えていく。
「………!」
加州と大和守は声にならない声を上げる。
後に残ったのは、やはり穴の空いた氷の球体だけだ。
2人は酷く落胆する。
一度時間遡行軍になってしまうと、元に戻っても顕現した状態を保つのは難しいらしい。
時間遡行軍を捕まえても、もう手の施しようがないということになる。