第35章 禍ツ神の正体
「あれが時間遡行軍…?禍ツ神じゃないんですか?」
控えめに尋ねるレンに答える者は居なかった。
レンを抱えていた鶴丸の手が強く握り込まれる。
後ろを見上げると、絶望と怒りを綯い交ぜにした顔があった。
彼等は敵と思って戦っていたが、実は仲間内で殺し合った事になる。
落胆するのも無理はない。
けれど、レンにはかける言葉が見つからない。
落胆することがない彼女は、奮い立つ為の言葉を知らない。
だから、代わりに手を添える。
安らぐように、穏やかになるように、想いを込める。
鶴丸の身の内に、レンの神気が流れ込む。
ふんわりと温かく、穏やかな気だ。清い水の流れを思わせる。
ささくれ立った気持ちが洗い流されていく。
レンの想いがそのまま伝わる。
目頭が熱くなる。
鶴丸はレンの神気をもっと味わいたくなり、彼女を更に抱え込んだ。
「レン…。」
彼女を呼ぶその声は、なんとも頼りなく弱々しい。
レンは軽く息を吐き出すと、そのまま動かずにいた。