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君に届くまで

第33章 喧嘩



「ねぇ、鶴さん。ちょっと聞いてほしいことがあるんだ。」

燭台切は鶴丸の正面に座ると、彼を正視する。

「俺は、悪くないからな!!」

「うん。それは別にいい。話を聞き終わったら、また考えてほしいから。とにかく聞いて。」

鶴丸は燭台切に怪訝な顔を向けた。

「レンちゃんの事なんだけど。」

レンの名前を聞いた途端に彼は苦い顔をするが、燭台切は反論を許さなかった。

「あの子がぬくぬくと生きてきたかどうか、鶴さんは知るべきだと思う。全てを聞いてから、あの子を責めたらいい。」

燭台切は鶴丸を強い視線で縫い留める。
鶴丸は彼の譲らない姿勢に、黙って先を促した。

「この前、酒に誘って聞いてみたんだ。あの子の事を。」

燭台切はゆっくりと話し出した。

「あの子は、育ちは忍の里だけど、生まれはずっと北の国なんだって。小さい頃の記憶が無くて、一番初めの記憶は、怖い何かから一人で逃げている所だって言ってたよ。戦争孤児だったんだって。」

鶴丸は目を瞠った。

「嘘だ…。戦争なんて…。」

「けど、あの子のいた世界は、日本じゃない。違う世界だ。」

燭台切の言葉に鶴丸は尚も食い下がる。

「あの子の狂言だってことも…」
「僕はそうは思わない。」

鶴丸の言葉に被せる様に燭台切は言い切る。

「それだけじゃない。あの子は里の裏の組織に売られて忍になったんだって言ってた。そこで同世代の子と一緒に組まされて、その子と兄弟同然に育っていったんだ。けれど、命令で兄弟の子と殺し合いをさせられたんだって。」

「そんな…!それって俺達みたいじゃん!」

一緒に聞いていた加州は声を上げる。他の者も一様に言葉を失っている様だ。

「…そうだよ。僕達と境遇が似てるんだ。レンちゃんは、自分が死ぬ筈だったって言ってた。その兄弟の子の方が強くていつも敵わなかったんだって。兄弟の子が命を譲ったから、自分が生き残ったって言い方してた。」

鶴丸は燭台切を見たまま、もう何も言い返さなかった。
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