第32章 本丸跡地で
「光坊。大広間が無事だったから、みんな移ったぞ。」
そう時を置かずに、鶴丸が燭台切を呼びに顔を出した。
「鶴さん、ありがとう。とりあえず休むところがあって助かったよ。」
「…キミ、起きてたんだな。」
鶴丸はレンを見咎めると、みるみる表情を硬くした。
「おはようございます…。」
それを見たレンも表情が硬くなる。
「俺は先に行ってるからな、光坊も来いよ。」
鶴丸はレンに返すことなく去って行った。
「鶴丸、本丸を焼かれてからずっとああなんだ。…レンが悪いわけじゃないのにな。」
太鼓鐘は苦笑してレンに話した。
「私が本丸を焼け野原にしたと思ってるんですか?」
「レンは政府の手先だとは思ってるかもな。」
太鼓鐘は肩を竦めて見せる。
「じゃ、俺は先に広間に行って休んでるぜ!」
太鼓鐘はそう言うと、鶴丸を呼びながら彼の後を追いかけていった。
「…ごめんね、レンちゃん。」
燭台切は苦笑する。
「燭台切は悪くないんですから、謝る必要はありません。」
「でも気になるんじゃないの?」
「気になるか、ならないか、と聞かれれば、気にはなりますが、それだけです。気にしたところでどうしようも出来ないでしょう。」
大和守は遠慮がちに聞くが、レンは意に介さない。
「でも嫌な気持ちになったり、いじわるしてみたくなったりは…しない?」
「…何の為に?」
「やられたらやり返す、みたいな…。」
加州は怖々聞いてみると、レンは嫌そうな顔をする。
「めんどくさい。」
めんどくさいんだ…。変わった子だな。
彼等は、安心していいのか、呆れるべきなのか迷う。