第32章 本丸跡地で
「ところで、何か残ってましたか?」
「食料庫以外はみんなダメだね。」
「食糧庫があったんですか。」
レンは初耳だった。
「薬草も半分は無事だよ。入る物だけでもと思って入れといたんだ。」
「ありがとうございます。」
レンは驚いた様子で燭台切を見上げ、それを見た彼はくすくすと笑う。
「それはそうだよ。だって僕達にとっては命綱となる物なんだもの。」
「薬草?」
大和守が不思議そうに聞き返す。加州も興味を示した。
「薬研君とレンちゃんが作った刀剣に効く傷薬があるんだ。その材料をレンちゃんが大量に採ってきてね。その半分を僕が食糧庫に入れといたんだよ。」
「え、傷薬があるの?」
「刀剣に効く?」
「はい。効果は実証済みです。燭台切も試しましたよね。」
「うん、効果は抜群だよ。」
燭台切はにこりと笑いながら答えた。
丁度、太鼓鐘と大倶利伽羅が厨に入ってきた。
「みっちゃん、私物持ってきたぞ!」
「ありがとう、貞ちゃん。外にでも置いておいて。」
「お前…、もういいのか?」
大倶利伽羅はレンに尋ねる。
「はい、問題ありません。」
彼女の返事に、大倶利伽羅は眉を顰め、無言で額の傷をなぞる。
「…痛いんですが。」
「そういうのは問題ないとは言わない。切り傷だって無数に作っただろう。休んでいろ。」
大倶利伽羅は比較的大きめの切り傷がある背中側を狙って軽く叩いた。
「いった!」
「光忠も、こいつを休ませとけよ。」
大倶利伽羅はそう言って厨を出て行く。
くそー…、と呟きながらレンは叩かれた背中を摩る。
「珍しい。」
「伽羅ちゃんが馴れ合ってる…。」
太鼓鐘と燭台切は互いの顔を見合わせて呟いた。
「ま、レンだからね。」
「レンってなんか憎めないよね。」
加州と大和守はくすくすと可笑しそうに笑った。