第30章 帰還
夜が明けて陽の光が大地を照らしていく。
焼け野原と化した本丸も同様に照らし出される。
酷い有様だ。殆どが燃え尽きて家屋が崩れ、煙が上がっている。まだ燻り続けているのだろう。時折炎が揺らめいているのが見える。
レンちゃんの結界は優秀で、本当に外からは見えていないらしい。時間遡行軍が数体近づいてきたが、皆、素通りしていった。
そして、そのまま山の中へ消えていき、未だに戻って来る気配はない。
僕達は、静まり返った暗い森の中、互いに身を寄せ合って朝を迎えた。
僕は祈る様に伽羅ちゃん達が消えて行った方角を見る。
みんなが無事に戻ることを、レンちゃんが生きていることを信じて。ひたすら待ち続けた。
ただ待つだけなのは、何とも歯痒い。
やはり自分が行けばよかったのでは、と何度自問自答を繰り返したことだろう。
「そんなにあの子が待ち遠しいのか?」
鶴さんがいつの間にか隣に立っていた。
「あの子だけじゃないよ。僕は誰一人欠けてほしくない。」
鶴さんは押し黙ってしまう。
「…あの子が、信じられない?」
「…ああ。信じられない。人間は要らない。」
鶴さんは険しい目で壊滅した本丸を眺めている。
「わたくしも以前、あの方にそう言った事がございました。」
狐君に話しかけられて、僕達は後ろを振り向いた。
「あの方は、声高に糾弾したわたくしの言葉を気にしませんでした。」
彼は思い出した様に、くすくすと笑う。
「それどころか、ご馳走を振る舞い、薬を作り、当たり前の様に”一個体”としてわたくし達に接してくださいました。」
狐君は鶴さんを穏やかに正視する。
「あの方に不服があるならば、真正面からぶつけたら宜しいではありませんか。決して鶴丸殿を無碍にはなさいませんよ。」
「…どうだかな。」
鶴さんはぼそりと呟き、また本丸を見下ろした。
その姿からは拒絶が垣間見える。
僕達はそれきり何も言えず、彼に倣って本丸を眺めた。