第30章 帰還
怒鳴るレンの手は僅かに震えていて、彼女の緊張の高さが窺える。
ー心配、してくれたのだろうか。生きてもいない俺達を。
「悪かった、大将。」
薬研の中に温かいものが広がる。
「あんた達も同じだからな!!?」
レンは大倶利伽羅達の方を向き、怒鳴る。
ー本当に光忠の言った通りだった。こいつは俺達を"人"と見ている。
失ったとしてもまた顕現すればいいだけの自分達を全力でもって守り抜いた。そして全身でその心配を体現している。その事実が徐々に彼等の中に沁み渡る。
「…ボク達が死ぬのが嫌だった?」
乱は震える声を押し殺して聞いてみる。
「当たり前だ!」
「でも…、俺達は何度でも顕現するよ…?」
加州がそっと尋ねる。
「だとしてもそいつはもう、同じ顔の別の奴だ!あんた達じゃない!」
レンは怒鳴りながら答える。
それを聞いた一同は呆気に取られた後、ゆるゆると笑いが込み上げる。
「ぶっ、くくっ。」
「ふは、あはははっ!」
「くくっ。」
「あはははっ!」
それを見たレンは益々頭に血が昇る。
「何が可笑しいんだ!!私は怒ってるんだぞ!!」
ふー、ふー、と鼻息荒く、まるで威嚇する猫の様だ。
「いや、ふくっ…。悪い、な、大将。あ、あまりに予想外の、答えが…くくっ…返ってきた、もんだから。」
「あははは!ホント、まさかの答えが、あはは!返ってきた!」
薬研と乱はお互いを支えながら腹を抱えている。
「同じ顔の別の奴か…、くくっ、言い得て妙だな。」
「ホントにね。そんな風に、ふふっ、思う人なんていたんだ。」
大倶利伽羅と加州は、くつくつと笑う。
「くそ!反省しろよ!お前等!!」
レンは1人癇癪を起こした子供の様に地団駄を踏んだ。