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君に届くまで

第30章 帰還



どれくらい走っただろうか。



喉も肺も焼き切れそうな程痛む。

足も感覚が無くなっている。

加州は空を見上げると、薄ら白んでいた。

「空が…。」

レンは後ろを確認し、追っ手がいないのを見て止まった。

「来ない…。隠れるぞ…。」

レンも息が上がっている。
もうすぐチャクラ切れだろう。今襲われたら一溜まりもない。
草むらに身を沈め、もう一度後方を確認してから、木の幹に体を預けた。

まだ心臓がバクバクと煩い。手が僅かに震えている。
体がびっくりして言うことを聞かない。
先程、薬研達を見つけた時のことを思い出し、一人密かに震え上がる。

ー詰んだと思った…。
 よかった。守りきれた。

レンは安堵からそのまま膝を抱えて蹲る。

「…大将。」

薬研がいつの間にか近くに来ていて、腕に自身の手を置いた。
レンの中に沸々と怒りが湧き起こる。

「…お前等、よくも…。」

「え…?」

彼女は徐に起き上がると、薬研のシャツの襟首を両手で掴み潰す。



「よくもやってくれたなぁぁぁぁ!!」



遂にレンの緊張の糸が切れた。
間近で怒鳴られた薬研の耳はキーンとした音に包まれ、鼓膜が薄ら痛む。

「わ、悪かっ…」
「本当に悪いと思ってるんなら結界を出るんじゃない!!!」

レンの怒りは収まらない。

「こっちは逃げるにも引き際があるんだ!!予測出来ない事柄を引き起こすんじゃない!!お陰で肝が冷えたわ!!」

レンは初めての感情故か、怒りの収めどころがまるでわからない。

頭が沸々と茹っている。

鼓動が速く強すぎて心臓が少し痛む。

怒っている人を見て、湯を沸かしたやかんの様だなんて言った人がいたが、本当に的確な例えだと頭の隅で思う。
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