第29章 急襲
「ほらほら、防戦一方じゃ殺されちゃうよ。」
愉しそうな男の声が実に耳障りだ。
「でも、君は殺すなんて出来ないよね。だってここに居るのは全て刀剣男士の成れの果てなんだもの。」
ーまぁ、それが狙いなんだろうな、とは思っていたけど。
こいつは私を聖人君子か何かと勘違いしてやしないか?
これだけの異形に囲まれても先程から防戦一方に徹していればそう思うのも無理はないが…。
それにしても、あの悦に浸った横っ面を思いっきり蹴飛ばしてやりたい。
レンの狙いは男の周りに集められた刀剣男士だが、中々思うようには動けない。
近づこうとすると異形が立ち塞がり、働き蜂よろしく過剰に反応して守ろうとする。攻撃自体は単調だが数で押し切られたら勝機はない。
こうして防戦一方で攻撃を躱しているうちは、甚振っているつもりなのか避けられるぎりぎりを見極めて攻撃してくるだけだ。
かといって忍術を使えばいいかというと、そうでもない。
下手に使えば術を覚えられ、対策される。そうすれば今度はレンの身が危うくなる。逃げ時を逃すのだ。
ーあの人達は可哀想だが諦めるしかなさそうだ…。
レンは、体内のチャクラを多分に練り上げる。
「水遁、霧隠れの術!」
忽ち周囲を濃い霧が覆う。だが、すぐそこで火の手が上がっている以上長くは持たない。
次いで、氷遁で小さな盾を生成すると態勢をきりぎりまで低くし、一気に壁側に駆け抜けた。
「蛙組手!」
前に自来也様から教わった唯一の技。
衝撃が波状に広がり、影響が広範囲に及ぶ。破壊力は一級品だ。
仙術を取得した者だけが使える技だと言われているが、何故かレンには仙術を取得することなく出来たのだ。
壁の広範囲を派手に吹き飛ばし、外に出た。
霧から抜けた直後、レンは視界の端に誰かが居るのを捉える。そちらを向くと門の前に見知った顔が見えた。