第29章 急襲
「本丸が…。」
悲しそうな乱の呟きが聞こえてきた。
俺達は火の手が上がってすぐに高台へ避難した。
審神者棟が近い所から狙われたらしい。
俺達が異変に気づいた頃は、然程火の手は上がってなかった。
だが、今は本丸全てが燃えている。
「ここまでするとは…。」
俺はあまりの出来事に言葉が出なかった。
俺達が何をしたって言うんだ…!
「薬研…。」
厚が俺の肩に手を置いた。
見ると、顔が悔しげに歪んでいる。
「酷い顔だぞ。男前が台無しだ。」
「お前もな。はは、酷い顔。」
そうか、俺も酷い顔をしてるのか…。
「薬研君!」
燭台切の旦那の声だ。
「旦那も無事だったか!」
見ると顔も服も煤だらけだった。所々切れている。
「…戦闘になったのか。」
「まぁね。レンちゃんのことがあったから、戦闘服のまま休んでたのが功を奏したよ。丸腰だったら危なかった。」
旦那の後ろを見ると、伊達組は全員戦闘服で煤だらけではあったが、殆ど傷を負っていない様だ。
「本丸は…全焼だね…。」
旦那はぽつりと呟く。
「あの子が手引きしたのかもな。」
「鶴丸。」
大倶利伽羅の旦那が鶴丸の旦那を諌めた。
が、聞き捨てならない。
「鶴丸の旦那。いくら人間が嫌いだからって、大将を同じ括りにしないでくれ。」
俺は黙っていられず、口を挟む。
「俺は、キミ程あの子を信用してないのさ。」
旦那は不愉快そうに言い返すと、少し離れた所に行ってしまう。言うだけ無駄だと自分に言い聞かせて、俺は打ち切る。
「ごめん、鶴さんが。」
「いや、仕方のない事だ。俺達はそれだけ人間に煮え湯を飲まされてきたんだからな…。」
「うん…。そうだね…。」
「おい、当の本人は何処にいるんだ?」
大倶利伽羅の旦那が辺りを見回す。
「今、五虎退が呼びに行っている。あの人のことだから逃げ果せるとは思うがな。」
「え、レンちゃんいないの?呼びに行ってからどの位経つんだい?」
燭台切の旦那が何故か慌てだした。