第29章 急襲
「やるじゃん。君、強いんだ。じゃあ、これは?」
そう言うと、鍔迫り合いの合間に横蹴りを入れてきた。
レンは中途半端にしか受け身を取ることが出来ず、その場に踏ん張れない。体が宙に浮いたと思ったら次の瞬間には全身が壁に叩き付けられていた。
「がはっ」
肺が潰れたかと思う様な息苦しさと、痛みに思わず呻く。
「へぇ、それが君の本当の姿なんだ。中々可愛いじゃん。」
その言葉で、変化の術が解けたことを知る。
声の方を向くも視界が揺れている。
打ち所が悪かった。頭を打ったらしい。
「やっぱり人間は柔だね。こんなんで動けなくなっちゃうんだもん。」
瞬きを一つする間に青年が迫って来た。
レンは慌てて太刀筋を避ける。
既の所で躱したせいで避けきれず、額を少し切ってしまう。
目線を横に向けると、深々と刀が刺さっていた。
危なかったと思う暇もなく、今度は片手で首を絞められる。
体が浮いて、息が出来ない。
「さて、終わりだよ。」
青年は愉悦を含んだ笑みを浮かべて宣う。
ーふざけるなよ…!
レンは自由になった足を、壁を使って思い切り膝蹴りを繰り出した。
「…!!」
丁度、鳩尾に当たった様で、青年の手の力が緩み、しゃがみ込んだ。その隙にレンは辛々脱出する。
彼女は空気を肺に入れ、咳き込んだ。頭からぽたぽたと血が垂れて、左目を覆う。
「誰がお前みたいな変態に殺られるもんか。」
レンは目に入ってくる血を拭い、懐から傷の入った額当てを出し、付ける。
それから青年と距離を取りつつ、出方を伺がった。