第29章 急襲
本丸全てが眠りに包まれる静かな夜、突然の轟音にレンは飛び起きた。
僅かに辺りが焦げ臭い。レンは急いで着替えて支度をすると、寝間着を丸めて布団を膨らます。囮にする為だ。
おそらくは敵襲だろう。
焦げ臭いということは…。
「主様!!」
五虎退が部屋に飛び込んできた。
その後ろには橙の光が揺らめいている。
「政府、ですか。」
「いいえ!時間遡行軍です!!」
「は?」
耳慣れない言葉に思わず聞き返す。
「歴史改変を目論む奴らです!」
そんな事を言われたところで、レンにはわからない。
「とにかく、自分の目で確認します。」
レンはそう言うと、さっと五虎退を抱き上げて、近くの木を走って登り上がり、屋根へと飛び移る。
上から見た情景は正に地獄絵図だ。
本丸全棟に火の手が上がっており、落武者の様な者、骨の蛇の様なモノが多数蠢いていて、暴れ回っている。
火の手が回りきった家屋は轟音を轟かせながら次々と崩れていく。
時々悲鳴の様なものも聞こえてくるのは、動けずにいた刀剣達だろうか。
「…五虎退、あなた方兄弟はどうしました?」
「みんな無事です。高台に避難しました。」
「他に避難した者は?」
「江雪さんと、小夜ちゃんとも合流しました。僕は主様を助けに来たんです!」
「…五虎退。あなたは一刻も早く逃げてください。私は逃げ遅れた者がいないか確認してきますから。」
「で、でも…!」
「影分身を付けますから、敵の目をなるべく引きながら逃げてください。その間逃げられる者がいるかもしれません。」
「わ、わかりました。や、やります!」
レンは影分身を4体出すと、1人を五虎退に付ける。
「頼みましたよ。」
「はい!」