第3章 手当て
ふと、視線を感じて家屋の下を見ると、いつの間にか黒髪に赤目の袴姿の青年が、タライを抱えたまま口を開けてぽかんと見上げていた。
あ、バレた。と思う暇もなく、その青年は持っていたタライを落とし、レンを指差しながら大声を上げた。
「ああぁぁぁぁー!!!」
驚いたのはレンだ。
その大声で反射的に逃げだした。
「逃げたぁぁぁー!」
加州は思わず、大声を上げてしまった。
「どうしたんですか!?」
近くにいた堀川は加州の叫び声を聞き、駆けつけた。
「あの人、ここに侵入した女の人が逃げた!屋根の上に!」
「え?」
堀川は一瞬返答に詰まった。
ーどういう事だろう?屋根の上に…?
とにかく、堀川は広間の中を確認する。
確かにあの女の姿はない。
「僕、燭台切さんを呼んできます!」
「俺は、あの人を追ってみる!」
二人は頷き合うとそれぞれ散っていった。
「思わず逃げちゃったけど…。よく考えたら逃げなくても良かったんじゃ…?」
レンは一人呟いていた。