第3章 手当て
渡り廊下の向こう側の棟から僅かに湯気が立ち上っているのがちらちらと見える。
お風呂でも使っているのだろうか。
どうせなら、少し湯を分けてもらおうと棟に近づいてみる。
中を伺うと、先日忍び込んだ厨だった。
ただ先日とは違い、どことなく綺麗に整理された様に思う。
水回りも使われた形跡があり、心なしか暖かい。きっと火を使ったのだろう。
ふと、戸棚に目を向けると、粥が盛られていた土鍋と蓮華が片付けられていた。
改めて人がいる事を実感し、何となく落ち着かない気分になる。
粥を作ってくれたくらいだから殺意はないのだろうが、レンに剣を向けた者達と同じ敷地にいる、という事が引っかかる。
レンは急にそわそわとし出し、そのまま厨を後にする。元いた場所に戻ろうとしたところ、渡り廊下を白髪で白い袴姿の男が歩いて来るのが見えた。
あの特徴的な男はレンの首元に剣を突き付けた男ではないだろうか。
レンは急いで厨の方に引き返した。角に身を隠すと足の裏にチャクラを溜めて壁を伝い、静かに屋根の上に隠れた。
鉢合わせは避けたい。
そのまま、屋根の上を音を立てぬ様にそっと移動する。
元いた部屋の真上まで来ると、大きく息を吐き出した。
「危なかった。」
そう呟いてから、はたっと考えた。
そういう問題でもないな、と。
なんせ、周辺ではここにしか人は居ないのだ。
せめてもっと人がいる場所を、例えば街がある場所を聞き出さなければ。
現在地を調べなければ帰るに帰れない。
ふと色が変わり始めた空を見上げた。
もうすぐ夕焼けになるのだろう。
そのまま視線を下へと向けて、少し金色に色づいた平野を見渡す。
本当にここは何処なのだろう、と考える。
火の国ではこんな所、見たことがない。
これだけ広い平野があり、豊かな森がある場所なんて他にあるんだろうか。
可能性があるとしたら、あとは雷の国だけだが…。
いや、知らないだけで水の国の南部ではこういう場所もあるのか…。
「考えると、ドツボに嵌りそうだな。」
レンは頭を抱えつつ呟く。