• テキストサイズ

君に届くまで

第28章 嵐の前の静けさ


灯りが点くと、すぐ側で、大和守と思われる青年が静かに眠っていた。

「この方が…?」

「うん、俺の相方、兄弟のような子。大和守安定だよ。」

見たところ、見える所に外傷は無い。

「刀を見せてもらっても?」

「これだよ…。」

差し出された刀はそこそこ長さがある。
これは目算を誤ったな、と思いながらレンは受け取った。完治は難しいだろう。
鞘からゆっくり抜いてみると、峰の真ん中辺りに大きな切り込みが入っていた。

「これ、聞いてもいいですか?」

レンは刀を見ながら聞くも、すぐ様薬研に止められた。

「大将、それには触れないでおいてくれ。」

薬研を見ると、表情を硬くしている。
聞かれたくない、という事だろう。

「わかりました。では手入れをしますが、いいですか?」

「うん…。お願い。」

「玉鋼が残り少ないので、この真ん中の傷を最優先に治します。完治は期待しないでおいてください。」

加州は黙って頷く。










真夜中に差しかかり、玉鋼が底をついてしまう。出来栄えはあまり良くない。

「やはり足りませんでしたね…。」

傷は塞がったが完全に治りきらず、擦り傷も多数ある。

「ここまでやってもらっただけでも凄い進歩だよ。もうダメかと思っていたから。…ありがとう。」

加州は涙ぐみながら大和守の髪を撫でた。
レンは何とも言えない想いを抱える。

「…機会があれば、必ず手入れします。」

加州はその言葉を聞き、涙を拭い微笑んだ。

「うん…。俺も遠征で稼いでくるよ、食い扶持を。」

「…なんだ、食い扶持って?」

薬研は怪訝な顔で加州を見る。

「レンが言ったんだ。“自分の食い扶持は自分で確保してください”って。」

加州は可笑しそうにくすくす笑う。
対して薬研はげんなりした顔でレンを見た。

「玉鋼は食料じゃないぞ…。それに言い方…。」

「知ってますよ…。物の例えじゃないですか…。
あなた方にとっては血肉となるのだから、そう思っただけですよ。言い方は、まぁ…勘弁してください。」

レンはげんなり顔で薬研に返した。

そんな2人を見て、加州は可笑しそうに笑った。
/ 1257ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp