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君に届くまで

第28章 嵐の前の静けさ



「しかし、いつの間に約束なんてしてたんだ。」

薬研は行燈から灯りを貰い、提灯に移す。

「太鼓鐘さんの手入れの時に。通りかかったらしくて、手入れを見ていたんです。で、その帰り道に頼まれました。」

「珍しいな。加州が大将に関わりを持つなんて。」

そう言いながら薬研が立ち上がり、レンもそれに倣う。

「じゃ、行ってくるからな。」

「はい、いってらっしゃい。」

「がんばってね。」





流石に冬が近いのか、夜はめっきり冷える。
レンは手を擦りながら前を歩く薬研を追う。

「寒いのか?」

「はい。今、秋みたいですからね。」

「そろそろ温石が恋しい季節だよな。」

「…灯りもそうですが、随分と古いのを使ってますね。」

「ここは日本であって日本じゃないからな。自給自足が基本だから昔ながらの道具の方が長く使えるのさ。
っと、着いたぜ。」

そう言うと、薬研は部屋の障子を小さく叩いた。
灯りは灯されておらず、真っ暗だ。
がさがさと中から音がして、障子が少し開く。

「誰?」

加州が顔を出した。

「夜分にすみませんが、今から手入れさせてもらえませんか。」

「…今から?」

加州は怪訝な顔をしながら問い返す。

「今からです。落ち着いている今のうちにやりたいんです。」

「あー…。実はな…」

薬研は見かねて事情を話し始めた。


話を聞いた加州の顔が強張る。

「政府が…。」

「あぁ。だからいつどうなるか予測が付かない。今のうちにやれるだけやっときたいんだ。大将は。」

「加州さんだったら見たところ、然程怪我は酷く無いようですし、残りの玉鋼でなんとかなるかと思いまして。」

「あー、実は…、手入れしてほしいのって俺じゃないんだ。」

そう言って加州は部屋の中を見る。

「まさか、大和守か…?」

薬研は加州の仕草で状況を理解する。
加州がいて、大和守が出てこないところを見ると彼は重症なのではないだろうか。

「うん、薬研の後にすぐ俺達もね…。」

「そうか…。」

「…とにかく入って。今灯り付けるから。」

加州はレンと薬研を中へ促した。
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