第27章 視察
五虎退に変化した影分身は、物陰に身を潜めて視察の者の動向を伺った。
「相変わらず不気味な所だな、ここは。」
「全く。辛気臭くて敵わない。」
「…申し訳ありません。何分封印が解けたばかりですので…。」
こんのすけは平身低頭で男達に応対する。
「しかし、前田殿。娘御がお亡くなりになった場所によく来れたものですな。」
白髪混じりの中年の男は口元に少し笑みを浮かべて皮肉を投げかける。
「…それはそちらも同じでしょう、奥脇殿。」
前田と呼ばれた男は、顔を顰めながら返した。
こちらの男は奥脇と呼ばれた男よりも若い。
「私は彼此10年も前の事ですので、傷は癒えましたよ。しかし、貴方にとってはつい最近の出来事。嘸かしお辛いでしょうな。」
「…白々しい。貴方もどうせ娘御を駒か何かと思っておるのでしょう。人の事を言える立場ですか。貴方がた夫婦が政略結婚であった事は周知の事実。お元気ですかな、愛人の花枝殿は。」
「ぐ…、それとこれとは関係なかろう。」
「そうでしょうか。愛人との隠し子は大層可愛がっていらっしゃる様ですな。対して本妻殿のお子には殆ど顔を合わせていなかったとか…。」
「なに、所詮噂でしかありませんよ。私は娘を殺された事を片時も忘れた事は御座いません。」
「…そういうことに致しましょう。こちらも余計な詮索は無用に願いたい。」
「…ふん。」
「…で、では、ご案内致します…。」
こんのすけの言葉を皮切りに、会話は打ち切られ、3人は本丸内へと進んでいく。
聞くに耐えない内容だが、関係性は十分に窺えるものだった。
彼等は先代、先々代の審神者の親達だ。しかも、かなり裕福な家柄と見える。
「…何で封印が解けたの?」
審神者の親達と一緒に来ていた青年がこんのすけに話しかける。
「…原因は分かりかねます。気がついた時には封印が解かれていました故…。」
こんのすけは知らぬ存ぜぬを通す様だ。
「そう…。」