第26章 太鼓鐘の手入れ
レンが部屋を出るのを見て、加州は追いかける。
「ねぇ、どうして…助けたの?」
「燭台切に治してほしいと頼まれたからです。」
「じゃあ、俺も治してほしいって言ったらどうする?」
「え…。」
レンは微妙な顔をする。
それを見た加州は、やっぱり言うんじゃなかったと後悔する。
「俺はダメなんだ。」
加州は歪な笑顔をレンに向ける。
「ダメっていうより…、体力が続きません。
今、終わったばかりですし。」
ー受ける前提だったんだ…。
加州は内心ほっとする。
レンは腕を組んで思い出しつつ答える。
「それにまだ先約があるんです。薬研達から兄弟の手入れを頼まれていますし。それに玉鋼が圧倒的に足りません。」
そこでレンは加州に向き直る。
「ということで、約束は出来かねますが手が空いたら治しますよ。その時はあなたにも遠征に出てもらいます。」
「遠征?」
「はい。みんな自分達の順番の時には、遠征に行って玉鋼を取ってきてもらっていますから。
自分の食い扶持は自分で確保してください。」
加州は面食らう。
ー玉鋼が食い扶持なんだ…。まぁ、ある意味食い扶持かも。
加州はレンの解釈がなんだか可笑しくなり、笑みを零す。
「わかったよ。じゃ、その時にはよろしくね。」
安定が治ると思うだけで心が軽くなる。
加州は軽い足取りで部屋へと戻って行った。