第26章 太鼓鐘の手入れ
誰かの話し声がする。
誰だ?
ゆっくり目を開けると、泣きそうな顔をした伽羅がいた。
「どう、した?」
口が上手く動かせない。
代わりに手を動かそうとして、また動かせない。
伽羅が泣きそうなんて珍しいこともあるもんだ。
「お前が、心配かけるからだろう…。」
泣き笑いのような歪な笑顔を浮かべて伽羅が返す。
はて。俺なんかしたっけか?
「貞ちゃん!」
みっちゃんが伽羅の反対側に来て俺を覗き込んだ。
その瞳には涙が溜まっている。
「起きた…。貞ちゃんが起きた。よかった…!」
どうやら余程心配をかけたらしい。
「ごめん…、おはよう…。」
何とか口を動かして伝える。
それを聞いたみっちゃんは顔を崩してはらはらと涙を零した。
レンは燭台切と大倶利伽羅を優し気に見つめる。
燭台切の嬉しそうな様子を見ることが出来き、ほっとする。
ーよかった。治してよかった。
レンは声をかけることなく、そっと部屋を後にした。