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君に届くまで

第26章 太鼓鐘の手入れ


こんなもんか、とレンは呟き、短刀を陽の光に翳す。

「治ったね…。」

涙の滲んだ声が隣から聞こえてきた。
何事か、とレンは加州を振り返る。

「…何で泣くんですか?」

レンは怪訝そうに加州を見ると、彼は焦ったように顔を背けた。

「な、泣いてないし!」

「そうですか。さて、ちょっと手伝ってもらえませんか?」

レンは加州に頼む。

「太鼓鐘さんの様子を見てきてください。」

血塗れのままだったら、レンは側に寄ることは出来ない。
しかし、それを知らない加州は不思議そうに彼女を見る。

「いや、自分で見れば?」

「とりあえず、血が出てないかだけ確認してきてください。」

加州の勧めを無視し、レンは彼の背中を押す。
なんで俺が、とぶつくさ文句を言いつつ、彼は太鼓鐘の様子を見る。血色がよく、傷は見当たらない。

「大丈夫だと思うよ。」

「傷はありませんか?」

「うん、無いみたい。」

レンはその言葉を聞いて、部屋に入ってきた。
そして太鼓鐘の布団をめくり首や手を確認して、ほっと息をついた。

「完了しましたね。これで帰りますが、あなたはどうしますか?」

レンは布団を戻しながら加州に問いかける。

「…俺も帰ろうかな。」



「レンちゃん、戻ったよ。貞ちゃんはどうだい?」

丁度、燭台切と大倶利伽羅が戻ってきた。

「今完了したところです。燭台切も状態を確認してください。」

燭台切は少し目を丸くすると、机に置いてあった短刀を手にして鞘からゆっくりと抜いてみる。


本当に綺麗に治っていた。
傷が何もない。鋼が陽の光に煌めいている。

「…ありがとう。レンちゃん、ありがとう…!」

燭台切は涙声で短刀を胸に抱きしめた。
その瞳から一筋涙が零れ落ちる。

「…どういたしまして。」

レンは燭台切を穏やかに見つめた。

「…俺からも礼を言う。」

眠っている太鼓鐘を撫でながら大倶利伽羅が言った。
すると彼に反応があった。今までぴくりとも動かなかった瞼が震える。

「う…、ん…、…あ、れ…?」

太鼓鐘が起きた。

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