第3章 手当て
レンは、誰かの笑い声が聞こえた気がして、目を覚ます。
辺りは明るい。
熱はかなり下がった様に思う。
レンは試しにゆっくりと体を起こしてみる。
久しぶりに体が軽い。
傷はじくじくと痛み腫れていそうだが、誰かが手当てしてくれたのだろう。不恰好だが包帯の様な物で巻かれていた。
ーそういえば、いつの間にか白い着物に着せ替えられている。
なら、私の服はどこに…。
きょろきょろと辺りを見回すと枕元に服が畳まれて置いてあった。ただしクナイホルダーと額当ては無かった。
ー当然か、仕方ない。
看病してもらえただけでも御の字だ。
とはいえ、武器が無ければ心許ない。
ーどうしたものか。
とりあえず乱れた長い黒髪を三つ編みにして整えると、廊下を横切り縁側に出てみる。
当然、誰もいない。
ーさっき、声が聞こえた気がしたんだけど…。
仕方なく部屋の中に戻る。
改めて見ると広い部屋だと思う。大部屋なのだろうか。
30畳、いや、もっとあるかもしれない。
中央に立ち並ぶ大黒柱が無ければ、100人くらいは入る宴会場になるだろう。
そんなだだっ広い部屋の中央にポツンと布団が一組敷かれているのは何とも落ち着かない。
レンはそれ以上休む気になれず、そのまま外に出ることにした。
長い廊下を突き当たりまで進むと建物に沿って左に曲がる。
すると大部屋の次はL字型に廊下が続き、無人の部屋が2、3並んでいた。
いずれもぴったりと障子が閉まっていて、中を覗いてみても人は勿論、家具も無かった。
そこでふと気が付いた。
あの逃げ出したくなるような禍々しい空気が無くなっている。
前は建物に近寄るだけでも忌避したくなるほど嫌だったのに、今は何も感じなかった。
こんな短時間で空気感は変わるものなのだろうか。
それとも具合が悪すぎてそう思ってしまっただけだったのだろうか。
変な所だと思いつつ、気の向くまま進んで行く。